唐津の路地にも、夜の暗さがおりてきました。
通りには人の気配がほとんどありません。
平日の午後だからでしょうか。
冬だからでしょうか。
とても静かな町だな、と思います。
ここは一応、繁華街のエリアらしいのですが、
歩きながら気に入る店を見つけるのは、なかなか簡単ではありません。
前の店を出る前に、
Googleマップと食べログで次の店を調べておくほうがいいな、
と思いました。
もちろん、
歩いている途中で気になる店を見つけたら、
予定を変えることはできないといけません。
あらかじめ調べておく店は、
最低限の安全装置みたいなものです。

Googleマップで見つけた店です。
もう地元では有名な店みたいです。
看板にはStand Bar Hennessyと書いてあります。
スタンドバー?
立ち飲みみたいなものかな、
と思いながらドアを開けました。

店は小さなバーでした。
カウンター席だけで、
スツールが7〜8個くらいあります。
バックバーには、
いろいろなお酒が並んでいます。
最近の流れのように、
モルトウイスキーが多く、
スコッチウイスキーやバーボンウイスキーも見えます。
カクテル用のリキュールもあります。

店の片側に、
小さなオーク樽が二つありました。
一つにはマッカラン(Macallan)、
もう一つにはボウモア(Bowmore)
と書いてあります。
それで、
本当に中にお酒が入っているのですか、
と聞いてみました。
最初はそのウイスキーが入っていたそうです。
でも、
とても昔の話で、
今はただの飾りだそうです。

このバーの一番の特徴は、
バーテンダーです。
白髪の紳士が
一人で店を運営しています。
店の壁にかかっている
バーテンダー資格証には
「昭和48年」と書いてあります。
つまり
1973年に資格を取ったということです。
もう53年の経歴です。
ぼくが生まれる前から
バーテンダーをしてきた人が作るカクテル。
それがとても気になりました。

ぼくはカクテルを注文するとき、名前で注文しません。
いや、できません。
あのたくさんのカクテルの名前を
全部覚えることはできないからです。
だから、
その時の気分や状況を話して、
合いそうなカクテルをおすすめしてもらいます。
今はお腹がいっぱいなので、
お腹を落ち着かせるカクテルをお願いします、
と言いました。
甘いものでも大丈夫です、とも言いました。
作ってくれたのはアレキサンダーでした。
ブランデーをベースに、クレーム・ド・カカオとミルクを混ぜたカクテルです。
お腹がいっぱいと言ったので、
甘いデザートを出してくれた感じでした。

次は
炭酸の入ったカクテルをお願いしました。
作ってくれたのはシンガポールスリングです。
ジンベースにチェリーリキュールと炭酸水を混ぜたカクテルです。
さっぱりしていて、するっと飲めました。
この店のカクテルは、
最近のスタイルではありません。
最近の日本のカクテルは、
まるでナイフで切ったように
きれいに整った味を目指している感じがあります。
でも
ここのカクテルは
少し素朴で、
どこか温かい、
昔のスタイルのカクテルです。
オーナーバーテンダーの
穏やかな雰囲気が
カクテルにも出ている気がしました。

となりの席には、
ぼくと同い年の再生エネルギー関係のエンジニアがいました。
一人でカクテルを飲んでいました。
札幌から出張でここに来たそうです。
一か月に一週間くらい、よく来るそうです。
それでこのバーの常連になったと言っていました。
同い年のエンジニアと
オーナーバーテンダーと
そしてぼく。
三人でいろいろ話しているうちに時間はすぐに過ぎていきました。
最後の一杯はモートラック(Mortlach)12年。
飲んだことのないウイスキーでした。
スペイサイド地域のウイスキーです。
バランスのいい典型的なシングルモルトだと感じました。
ピートはほとんど感じません。
でもただ飲みやすいだけの最近のやさしいスタイルでもありません。
しっかり個性を主張する、
よくできたウイスキーという感じでした。

会計をして
立ち上がろうとしたら、
プレゼントで大きなみかんを二つくれました。
味は特別なものではありませんでした。
でもバーテンダーの温かい気持ちが伝わってきました。
少しだけさみしさをやわらげてくれたみかんでした。
唐津では、たぶん一番有名なバーかもしれません。
53年も営業してきたのですから。
時間の分だけ温かさがある場所でした。
小さな地方の町で銀座のカクテルを期待してはいけません。
ここではここのカクテルを楽しめばいいのです。
長い歴史を持つ
オーナーバーテンダーと
温かい雰囲気が魅力の
スタンドバー ヘネシーです。
ちなみに「スタンドバー」という言葉は立ち飲みの西洋バージョンと考えてもいいと思います。
立ち飲みは今でも本当に立って飲む店ですが、
スタンドバーはカウンターに座って飲む小さなバーという感じです。
実は1970年代によく使われた言葉で、
最近はあまり使われないそうです。
つまり
この名前も
この店が長く続いている証拠なのかもしれません。
韓国のおじさん、zzoosでした。

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